記事番号: 1-6184
公開日 2015年05月27日
浦添市では、那覇港湾区域における浦添市の西海岸開発に関し、その埋立に要する面積の縮小などをまとめた「浦添市素案」を作成しました。
那覇港湾区域の事業を所管する一部事務組合である那覇港管理組合(構成母体:沖縄県・那覇市・浦添市)では、来る8月末までに「那覇港長期構想」の改定を見込んでおり、今後、この計画に浦添市の考え方を反映し、浦添市にとって最大の利益が得られるよう努めてまいりたいと考えています。
はじめに
浦添市の西海岸開発には、これまで長い道のりがありました。
西海岸開発に関するご説明をする前に、これと密接に関係する那覇港湾代替施設(以下、「那覇軍港」と言います。)と牧港補給地区(キャンプ・キンザー)に関する一連の経緯についてご紹介します。
年月日 | 内 容 |
1974(S49)年1月30日 | 第15回日米安全保障協議委員会で、移設条件付き全面返還が合意される。 |
1995(H7)年5月11日 | 日米合同委員会において、約35haの代替施設を浦添ふ頭地区内に移設すること等を条件とする那覇港湾施設(56.8ha)の全部返還を承認。 |
1996(H8)年12月2日 | SACO最終報告で那覇港湾を浦添埠頭地区への移設することで合意。 |
1999(H11)年1月29日 | 稲嶺恵一沖縄県知事(当時)、第10回沖縄政策協議会で那覇軍港を浦添市へ移設する政府案を受入れる意向を表明。那覇市・浦添市との調整を進めながら実現させたいと述べる。 |
1999(H11)年3月8日 | 浦添市議会「浦添市西海岸開発促進に関する意見書」可決。 |
1999(H11)年7月26日 | 浦添市議会「那覇港一部事務組合の早期設立に向けての要請決議」採択。 |
2001(H13)年11月12日 | 儀間浦添市長(当時) 浦添ふ頭への軍港移設受入を表明。 |
2001(H13)年11月16日 | 国・県・地元自治体等で構成する「那覇港湾施設移設に関する協議会」を設置。 |
2002(H14)年4月1日 | 沖縄県・那覇市・浦添市を構成母体とする一部事務組合、那覇港管理組合が発足。 |
2011(H23)年4月 | 平成22年3月の那覇港湾計画の変更を踏まえ、日米合同委員会において那覇港湾代替施設の形状変更に合意。 |
2013(H25)年4月 | 沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画により、キャンプ・キンザー返還が2025(H37)年又はそれ以降に返還とされる。 |
この流れの中で、那覇港管理組合において平成22年3月に策定されたものが、現行の港湾計画となります。
この図が現行計画の図となります。実際には当初の段階(後述)では、より北側の海域部分まで埋立の予定となっていましたが、計画の見直し過程の中でカーミージー一帯を「自然的環境を保全する区域」とすることにより、西海岸道路の一部は埋立をせず橋脚方式を採用することにより、区域における環境への負荷を軽減する方向で埋立面積の縮小を図っています。
西海岸開発に係る浦添市素案策定の背景について
次に、那覇港長期構想策定における浦添ふ頭に関する浦添市素案策定に至った背景について説明します。
浦添市の西海岸海域については、『第二次浦添市総合計画』においてマリントピア構想としてその開発の具体化が示され、現在の『第四次浦添市総合計画』においても、西海岸一帯については浦添市のまちづくりリーディングプランの一つとして「海を活かした文化と活力ある新たな都市の形成」をコンセプトにまちづくりを行うことが示されるなど、早期の事業実施が期待されているエリアです。
一方、市の西部の大半を占める牧港補給地区(キャンプ・キンザー)については、上記のとおり平成25年4月の統合計画において返還時期が2025(平成37)年又はそれ以降として示されたことから、キャンプ・キンザーと西海岸海域との一体的な利用計画・開発に向けた、早期の対応が求められる時期に来ているものと市は認識をしています。
よって、市では昨年8月より市民ワークショップや市民討論会、市民アンケート調査結果を基に、学識経験者や有識者等で構成する「那覇港浦添ふ頭地区長期整備構想検討委員会」を立ち上げ、現在、那覇港管理組合において作業が進められている那覇港長期構想に反映させるべく「浦添市素案」を策定しました。
西海岸開発とキャンプ・キンザーの一体的計画を目指して:なぜ、一体的計画を目指すのか
浦添市素案に至る背景には、キャンプ・キンザーの返還が具体に提示されたことは大きく影響しています。
これにより、県都那覇市に隣接し、空の玄関:那覇空港、海の玄関:那覇港の間近に広がる浦添市のこの空間には、新しい観光リゾートとしての期待値が高まっています。
沖縄県文化観光スポーツ部の調査によりますと、ここ数年の沖縄は観光産業の進展に著しいものがあり、「沖縄21世紀ビジョン」に掲げる観光客1000万人という目標も、既に平成26(2014)年中には700万人を超える状況となり、もはや夢物語では無くなってきました。
このような現状を踏まえつつ、前述したとおり那覇空港から近く、273haもの広大な基地の返還跡地と自然海域がある浦添市は、観光産業の振興に大きなポテンシャルがあると期待されています。
その可能性を探るということは、多くの関係者の『人流・国際的リゾート地』への期待に応えることを意味するのです。
基地産業から観光産業への転換:その可能性の背景
『物流から人流』へ、キャンプ・キンザーに関連した基地産業から跡地を利用した観光産業へと転換を図る可能性については、既に具体的に条件が整っています。
1つ目に、大量の観光客入域の「足」となる航空機については、那覇空港の第二次滑走路計画が2020(平成32)年を目標に進んでいます。
2つ目に、沖縄県は全体として観光客1000万人時代を目標にした様々な政策を実施し、沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)を活用するなど積極的に取り組んでいます。平成25年度の観光収入は約4,330億円。これは県内GDPの約10%を占める値となっており、入域観光客数は上記グラフにもありますとおり、平成26年は約705万人を突破しています。
3つ目に、那覇港に入港するクルーズ船には、COSTA ATLANTICA、COSTA VICTORIA、CRYSTAL SERENITY、Azamara Journey、NAUTICA、SILVER WHISPER、にっぽん丸、ぱしふぃっく びいなす等があり、その増加と、受入のために港湾の拡充の必要性があります。
浦添市素案について
そこで、「浦添市素案」となります。
その基本的な考え方は、先にご説明しましたとおり、これまで『物流』中心であった西海岸開発のあり方を『人流』を含めた開発へと移行することで、西海岸の背後に広がるキャンプ・キンザーとの一体的開発による、沖縄県が目指す観光客1000万人時代を支える、”国際的リゾート地”としての一翼を担うことが期待されてきます。今後は、この浦添市の地の利を生かした経済振興による就業と雇用の場が確保されることが期待され、本市の持続的発展を確実なものにしながら、本市のみならず県経済のけん引役となるよう取り組んで参りたいと考えています。
現計画と浦添市素案の違いについては、まず1点目が、ビーチの向きを北向きから西向きに変更したことです。
2点目は、マリーナの位置を水深の深い箇所で計画したことです。これらにより、浦添市素案は環境影響評価方法書で指摘された知事意見に配慮した内容となっています。具体の知事意見は次のとおりとなっています。
本事業は、那覇港港湾計画に基づき浦添市西洲地先において、ホテルや商業施設、コンベンション施設の都市機能用地及び人工ビーチを含む緑地等を整備するための埋立事業である。 事業実施区域及びその周辺海域には海域生態系の構成要素として特に重要なサンゴ類、海草藻場、干潟が分布するなど沖縄島中南部の西海岸では稀な自然海浜が残されており、自然環境の保全に関する指針[沖縄島編](平成10年3月、沖縄県)においても、「自然環境の保護・保全を図る区域」であるランクIIと評価されている。 また、牧港補給地区の存在によりアクセスルートが限られていながらも潮干狩りや豊かな自然環境を活用した地元小学校による環境学習の場として活用されている。 このような良好な自然環境が残されている地域において本事業が実施された場合、事業実施区域に存在する藻場や干潟が減少することとなり、事業実施区域周辺のサンゴ礁や藻場、干潟が大きな影響を受けることや、埋立地の存在による潮流変化に伴う堆砂などの地形変化等の影響が懸念されるところである。 本事業は、一旦実施されると現況の自然への回復が困難な不可逆性の高い埋立行為を行う事業であり、以上に述べてきた事業実施区域及びその周辺の環境状況を考慮すると、本事業に係る環境影響評価は、慎重かつ詳細に調査し、より科学的かつ客観的に予測・評価を行い、環境保全措置を十分に検討することによって、当該事業の実施に伴う環境への負荷を可能な限り低減し、事業実施区域及びその周辺の良好な生活環境及び自然環境の保全に万全の措置を講じる必要がある。 |
3点目は、これまで第二ステージ(35.5ha)と第三ステージ(102.8ha)、那覇港湾代替施設(以下、「那覇軍港」と表記します。)埋立て(49.0ha)を合わせた埋立て面積187.3haが、この浦添市素案では164.3haとなり、23ha(約12.3%)縮小した案となっています。
この図がキャンプ・キンザーと一体となった西海岸地区のイメージ図となります。
カーミージー周辺にある豊かな自然海域を保全し、潮流を妨げないよう配慮するとともに、コースタルリゾート地区として最大のポテンシャルを活かせるようビーチの形状と位置を見直しています。
ご参考までに、これまでの那覇港湾計画の変遷の様子をご紹介します。
昭和63年2月→平成15年3月改定→平成22年3月改定(現行計画)、そして浦添市素案の順で並んでいます。では、その変遷の様子を重ねあわせてみます。
青いラインで描かれたエリアが「昭和63年2月」の計画における埋立部分、黒いラインで描かれたエリアが「平成15年3月改定」の計画における埋立部分、赤いラインで描かれたエリアが「平成22年3月改定」の計画における埋立部分を示しています。
一見してお解り頂けるとおり、那覇港湾計画における浦添市の西海岸開発計画案は、当初の計画における埋立面積の規模から順次、その埋立面積を縮小しています。その背景には環境負荷に対する配慮であったり、時代の社会・経済状況を反映しながら、浦添市の市益が最大化を図り、浦添市の発展に繋がるべく変更の検討を重ねてきたものとなっています。
その中でも、今回の浦添市素案は当初の那覇港湾計画の埋立面積から最大の圧縮を図り、自然環境の保全に留意しながら、観光振興による沖縄県全体の浦添市の発展に寄与できるよう整えたものとなっています。
那覇軍港の位置関係について
上記にご紹介したように、西海岸開発における総埋立面積を縮小し、環境影響評価方法書に対する知事意見を踏まえつつ、残された浦添市西海岸の自然を最大限保存するという、浦添市素案の具現化、限られた時間内での現行計画への反映にあたっては、那覇軍港の建設位置変更は大切な要件になってきます。
そのことは、「SACO合意に基づき(那覇軍港を)浦添ふ頭内のいずれの場所に変更するのか」ということを意味し、変更の結果は、西海岸海域とキャンプ・キンザーとの一体的開発のあり方を大きく左右することになって参ります。
よって、キャンプ・キンザーを含む西海岸一帯に期待される開発利益の最大化を図り、埋立面積を最小に抑えることで環境負荷の軽減と浦添市西海岸の自然を最大限保存しつつ、浦添市を国際リゾートとしての発展を促す浦添市素案の早期具現化に取り組むためには、那覇軍港の建設位置変更については、第三ステージを含む海域とすることが望ましく、これによりイノー部分の埋立を見直すなど、自然環境への負荷をできるだけ小さくし、自然保護と経済振興のバランスがとれた発展に寄与することができると考えています。
那覇軍港移設問題とその建設位置変更に関する基本的な考え方
浦添市では、浦添市素案の具現化に向け、新たな那覇軍港建設位置を浦添ふ頭内の第三ステージを含む海域とする、としています。
このことにつきましては、那覇軍港移設を巡る日米合同委員会での経緯、浦添市のみならず国や沖縄県、那覇市、那覇港管理組合と一緒になって取り組んできたこれまでの行政の継続性や、何よりも今後の行政運営に支障が出ることは回避する必要があると考えました。
現状を整理しますと、まず、那覇軍港移設については、平成13年11月に当時の浦添市長が浦添ふ頭への受け入れを表明し、平成19年には政府、沖縄県、那覇市、浦添市による「那覇港湾施設移設に関する協議会」で建設する代替施設の形状が確定され、現在の港湾計画図には、その位置が明示されていること。
二点目に、浦添市素案の提案が遅れた場合、今年8月の那覇港長期構想策定及び11月の那覇港湾計画改定に向けた作業に大きな影響・支障が出てくること。
三点目に、2025(平成37)年又はそれ以降としてキャンプ・キンザー返還の可能性が具体的に示されたことから、国際的リゾート地の実現に向けた具体的取り組みをする等、時期を失することなく速やかな対応が求められていること。
こうした背景を踏まえ、那覇軍港建設位置をSACO合意に基づき第三ステージを含む海域とすることで、浦添市素案実現に向けた浦添ふ頭内整備の方向性を明確に示し、この案により市益の最大化を図るとともに、本市の今後の持続的発展につながるものと考えています。
さらに、これまでご説明しましたとおり、今回の浦添市素案は西海岸海域における埋立面積の縮小を最大限図ろうとしています。
計画段階 | 埋立面積(ha) | 増 減 |
①現計画 |
第二ステージ=35.5ha |
− |
②浦添市案+軍港 |
第二ステージ=42.0ha |
②−①:浦添市案に縮小することで減少する埋立面積 |
③第三ステージ内へ軍港移設 |
第二ステージ=42.0ha |
③−①:浦添市案に縮小し、さらに那覇港湾代替施設(那覇軍港)の位置を見直すことにより減少する埋立面積 |
現計画との縮小状況を比較した内容が上記のとおりとなります。
現計画で必要としている埋立面積は、浦添案に変更するだけで23haの縮小。これは小学校建設に必要な平均的な面積2.2haで計算した場合、約10校分の縮小にあたります。
さらに、那覇軍港の位置の見直しが可能となれば72haの縮小となり、小学校に換算すると最大約33校分の縮小となることから、それだけ環境に与える影響を回避することが可能となります。
本市は、提示された那覇港湾計画変更の期限や、浦添市周辺、沖縄県全体で進められる観光振興のための様々な政策的事業の推移を分析し、繰り返しとなりますが、環境負荷の軽減・埋立面積の縮小、返還されるキャンプ・キンザー跡地との一体的な整備による国際リゾートの形成を目的に、このように浦添市素案をまとめました。
今後とも浦添市は、浦添市素案の実現に真摯に取組み、関係機関との協議に取り組んでまいります。
関係各位のご理解とご協力のほど、よろしくお願いいたします。